酒害体験談

「妻が離婚届を持ってきた」・・・ 

発表者 I・Mu
所属 世田谷断酒会・家族

 今日は「奥様に感謝を捧げる酒なし忘年会」。
 「奥様に感謝をささげるだと〜!!どの面下げて奥様だ!!クソババアの集まりのくせしやがって!!」これは昨年 の「酒なし忘年会」の申込書を見ての夫「****」の言い草です。そんな夫が今年は五人男をやっています。なんなんで しょ。そんなこんなで、私はひそかに夫のことを「不思議君」と呼んでいます。
 本題ですが、実は午後からの五人男の夫のセリフの中に「妻が離婚届を持ってきた」という一文があります。もちろ んそれは本当のことです。今日はそれについての私の体験談をお話ししようと思っています。
 それは五年前、平成十六年にさかのぼります。平成十六年八月、私の妹の子供、当時中学生の姪っ子が夏休みを利用 して、初めて東京に遊びに来ていました。その姪っ子が帰る前日の夜中のこと、夫は私や子供たちが寝る時間になっても帰 ってきませんでした。いつものことなので、私も子供たちもその姪っ子も先に寝ていました。寝入ってどれくらい時間がた ったのかわからないけれど、日付は変わっていたと思います。自宅のインターホンが鳴りました。いや〜な予感がして出て みると、それはなんと!!成城警察でした。その時の警官と私の会話です。
「ご主人は帰宅してらっしゃいますか?」
「いえまだです」
「お宅の駐車場はどこそこですよね?車の車種はこれこれですよね?」
「はい」
「通りすがりの方から車の中で人が裸で寝ている、死んでいるかもしれない、と通報がありまして、車の持ち主等を調 べたところ、ご主人じゃないかと思われますので、確認にきていただけますか?」
びっくりしたってもんじゃなかったです。私はパジャマのまま、マンションのすぐ前にある五十台以上が駐車してある 駐車場へと急ぎました。その時の光景は四、五台のパトカーが道いっぱいにあって、その赤色灯が暗闇の中グルグルと回っ て、制服を着た警官だけじゃなくて、私服警官が五、六人・・・。野次馬と思われる人も何人かいました。何気に私たちが 住んでいるマンションを見上げると、マンションのベランダから何人もの人が顔を出していました。
 警官に職質されている夫の姿、叱責されている夫の姿、ベロベロに酔っているのにしっかりしている風を装おうとす る夫の姿、悲しい姿でした。それを見て私は「もういいや」という気持ちになりました。そして警官に「私は子供が寝てい るので帰ります」とだけ言って帰り、すぐに布団の中に入ったのです。結局夫は車の中で飲酒をして、そのまま寝入ってし まっただけで、飲酒運転をしたわけではないとされたらしく、その場で厳重注意を受けて返されたようです。
 しかし、それからも夫は、そういうことがあっても変わることなく、仕事から家に帰ればいつものように自分の部屋 で酒を飲み続け、大声をあげたり、壁を殴って穴だらけにしたり、夫の状態はますます酷くなる一方でした。
 警察騒動があって一ヵ月半、毎日のように夫と別れることを考えていたけれども、離婚届をもらいに行くことはとっ ても恥ずかしかった。そして、私にとってはもう必要のない夫であっても、子供にとっては父親、そんな言い訳を自分にし ながら、一日一日先延ばしにしていた私でした。そんなある日、仕事から帰り、玄関を一歩入った私は見てしまったのです 。夫はそれまでは、自分の部屋の壁を殴ってボコボコに穴を開けていたけれども、今までは全て隣の家との境の壁だった。 でも、その日見たものは、玄関の壁にいくつも出ている釘でした。夫は隣の家との境のではなく、玄関との境の壁に穴を開 けていたのです。壁に止めてある釘が行き場を失って玄関との境の壁に出ていたのです。今思えば、隣の家との境界の壁が 穴だらけになったから、反対側の壁を殴っただけのことだと思いますが・・・。でも、それを見た瞬間、何かが私の心の中 で崩れ、次の日、仕事の帰りにスーパーで買い物でもするように「離婚届」をもらってきました。何の感情もなく、役所の 職員に「離婚届」をください、そう言ってもらいました。そして、保証人(?)と夫の署名の欄を残して、夫に署名するよ う強要し書いてもらいました。そのとき言った夫の言葉、「俺に家族を取ったら何が残るんだ・・・」。その言葉は忘れら れません。その直後、夫は名古屋に単身赴任することになり、二人が署名捺印した離婚届を出すこともなく、いろいろあっ て、本当にいろいろあって今に至っています。それが、私が夫に離婚届を渡した体験談です。
 この体験談は、夫も参加している例会・懇談会ではまだ話したことはありません。もしかしたら夫のことだから、い つものように、「ふふん」と笑って、「あれはカミサンの作り話だから」という可能性が大ではありますけど、これは本当 のことです。私の体験談はこれで終わりです。
 最後に一言。京王のK・Yさんの言葉を借りてご挨拶させてください。夫、I・Mは断酒会に入るために生まれてき た男です。そして私は、アル中の女房として生きるために生まれてきた女です。これから二人、同じ方向を向いて、同じ歩 みで一歩ずつ一歩ずつ回復して行きたい、そう思います。そんな二人を今後ともよろしくお願いいたします。
 ありがとうございました。