先般、三段のお免状を頂いた。今思うと不思議な感じがする。当初、止めたくもない酒を止めるために通っていた。だから順調にことが進む訳がない。 三年までもつとは思っていなかった。でも心の片隅で止めなければいけないという思いが強くあったのも正直なところだ。
　自分の飲酒暦を振り返る時、断酒会で知ったＡＣのことを聞いて、少なからず私にも関係しているだろうと感じている。最近は慎重に振り返り思い起こすようにしている。 自分の幼少時期は父親の機嫌を損ねないように、やたら気を使う子供だった。父親には当然だが母親にも気を使う。喧嘩になるのが嫌だったからだ。些細な会話のやり取りでも、 話の内容によっては父親が怒り出すから、話をそらすために別の話をするよう母親に仕向けたりする。子供ながらに結構話の先々を予想していたものだ。
　ある日、そんな努力もかなわず父親の暴力が始まった。たしか仕事の段取りについて母親が口を挟んだような記憶がある。いきなり爆発したように罵声と暴力が始まった。 腕力の違いは当然で、しかも酒が入っているから、母親がどんなに痛い目に合ったかはご想像には難くないだろう。私は小さい身体を張って両親の間に入る。足を踏まれ、 小指の皮がはがれる。そんなことはどうでもいい。母親への暴力が一番怖いのだ。そんなに暴力を振るうなら、俺を叩けと常に思っていた。 このようなことにならないように毎日不安でどうしたら穏便に済むかを考えていた。遊んでいても、ふと気が付くと両親の仲のことを考えていた。 母親を心配する私は気の毒で涙が出てくる。それを母親に見られたくないから、隠れるように外に出てしまう。馬込の新幹線の陸橋上で何時間も人目も構わず泣いた。 いっそ飛び込んで楽になろうと思ったのも、この時初めて感じた感覚だった。たしか六年生の時で私の次女とちょうど同じ年齢だ。今思うと、生きていて良かったと感じる。
　その悪夢が明け、父親は何もなかったかのように仕事に出掛ける。母親が作った弁当を持ってだ。このギャップがどうしても理解できないでいた。 それと少し安心する。夜まで親父が帰って来ないからだ。ここで一つ付け加えると父親でも優しい時があることだ。それは素面の時。これもまた酔っている時のギャップが理解できないまま過ごしてきた。 当時は相談する人は誰もいなかった。相談するものと思わず我慢するものと勝手に思っていた。
　さて、私も身体が大きくなり、父親の怖さが腕力で防げるようになってから、不安の大半が私の頭から無くなってきていた。親父も年齢とともにやや温厚になっていたとも感じる。 そして社会人となり、結婚となった。幸せであったが、今度は育ちの違う人間と生活をともにし始めるから感覚の違いがどうしても出てくる。当然我慢が必要と理解はしていたが、 不満と鬱憤は蓄積されていた。以前から不満は人に話さない癖があり、一人で考え解決する人間だ。そして酒をすでに覚えていたから、癖の悪い酒になるのは当たり前だろう。 私も、私の父親と同じような姿になりかけていた。
　先に慎重に振り返ると言ったが、これは人のせいにしてしまうのが嫌で、よく考えて振り返っているのである。私の心の中でそんなに俺が悪いのかという思いが無くならず、 全てが反省材料にならないため、どうしても人のせいにしてしまうところがある。このままでは、さらなる回復は出来ないだろうし、円満そうな家庭に思えても私を見る子供たちの鋭い洞察力にこの回復は否定されてしまうだろう。
　いつも自分が謙虚になって反省できるようになるために例会で話を聞いている。そして、今思うことは、父親と同じことになりかけていた自分に軌道修正を与えてくれた、 この断酒会に感謝するのである。さらには、そのきっかけを見つけてくれたのは、妻であり感謝している。
　いま幸せを実感している。
　断酒継続の大切さを感じ始めている。